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大分家庭裁判所 昭和49年(家)770号 審判

申立人 田中不動産株式会社(仮名)

不在者 中山仁(仮名)

主文

不在者中山仁の財産管理のため、大分市中島面一丁目一番二八号弁護士小林達也を財産管理人に選任するる。

理由

一  申立の趣旨および実情

申立人は、不在者中山仁の財産管理のため松田明を財産管理人に選任する旨の審判を求め、その実情として、

1  申立人は宅地造成業者で、昭和四六年九月九日付をもつて○○レイクタウンの宅地造成に関する工事の許可を受け、以来造成に着手し、ほぼ全工区工事完了の域に達したが、別紙図面斜線部分に不在者所有の別紙物件目録記載の山林(以下「本件土地」という。)が存在し、その買収造成に支障をきたし、利害関係を有するものである。

2  申立人は上記不在者の消息について調査したが、不在者およびその家族について知るものがなく全く所在不明である。

3  ところで申立人は申立人所有の造成地外の山林と不在者所有の本件土地とを等価交換して造成を完了し、分譲を開始したいと考えているが、これができず困却している。

よつて不在者の財産管理人の選任を求めるため本申立をする次第であるが、管理人としては、松田明が最適任と考える。

と述べた。

二  当裁判所の判断

1  事実の概要

本件土地の登記簿謄本、自治委員丸山雅徳ほか一名作成の証明書、宅地造成に関する工事の許可通知書、松田明と○○木材市場株式会社間の土地売買契約書、松田明作成の領収証、申立人と○○木材市場株式会社間の不動産売買契約書、現場説明写真、家庭裁判所調査官影山芳文作成の調査報告書、当裁判所の松田明に対する審問の結果によると、以下の事実を認めることができる。

申立人は、宅地の造成販売を業とするものであつて、昭和四六年九月九日都市計画法第二九条に基づく開発行為の許可を受け、以来○○レイクタウンの宅地造成工事に着手し、ほぼ全工区の工事を完了した。申立人は、上記開発許可に先立つ昭和四五年七月一五日、申立外○○木材市場株式会社(以下「○○」という。)との間に上記宅地造成に必要な用地についての売買予約を締結し、ついで昭和四七年六月一七日に上記申立外会社から上記造成用地として一八万五〇一平方メートルを金二億四五七〇万四、五〇〇円で買受けた。ところで本件土地は登記簿上不在者の所有となつているが、同人およびその家族は明治三八年頃から行方不明であつたところから、これを事実上管理していた申立外松田明が昭和四六年一〇月頃○○に対し金四九万二、六五〇円で売却し、○○はこれを「管理権土地」と称して申立人に売却した。そして本件土地は、上記造成区域のほぼ中央付近に位置しており、申立人によつて、すでに造成工事が行なわれ、土地の形状が変更されている。

しかしながら松田明は本件土地について権利を有しておらず、申立人は本件土地の所有権を有効に取得していないため、上記造成宅地の分譲について支障が生じている。

2  申立適格

不在者の財産管理人選任の申立てをすることができる者は、利害関係人または検察官とされており、この利害関係人とは不在者の財産管理人を選任することにつき法律上の利害関係を有するものでなければならない。ところで不在者所有の財産を買収したい者がこの利害関係人に該当するか否かについて考えてみるに、売買契約は当事者間の自由意思に基づいて行なわれるものであつて、売買の申込みを受けた者は必ずこれに承諾しなければならない義務を負つているものではない。したがつて、土地収用法などによつて強制収用権が与えられているような事業主体が事前の措置として任意の買収申込みをするような場合は格別、そうでない場合には、単に不在者の財産を買収したいというだけでは、上記利害関係を有しているものということはできない。

ところで申立人は、前記1認定のように、宅地の造成販売を業としているものであつて、申立人が不在者所有の本件土地を買収したいというだけでは、本件申立につき法律上の利害関係があるものということはできないが、申立人は前記のようにすでに本件土地を含めた周辺一帯について宅地造成工事をほぼ完了しており(本件土地については所有者の承諾なしに造成したことになる。)その結果、不在者との間に損害賠償その他の法律関係が発生しているものと考えられるので、これらの関係を法的に解決するために、申立人には不在者の財産管理人を選任することにつき法律上の利害関係があるものと考えられる。

3  財産管理人の適任者

つぎに、申立人は不在者の財産管理人としては松田明が最適任であると申立てているのでこの点について検討するに、同人に対する審問の結果によれば、同人の職業は市役所の通転手であつて法律的な手続には疎く、また同人は本件土地を○○木材市場株式会社に四九万二、六五〇円で売却し、その売却代金は既に費消ずみであつて、その責任上不在者の財産管理人となつて、事後処理的に申立人に対する所有権移転の形を整えたいと考えていることがうかがわれ、不在者の利益を保護する見地からすると、上記候補者が不在者の財産管理人として適任であると考えることはできない。

そして、本件において、不在者財産管理人としてなすべき職務の内容ならびに今後の手続等を勘案すると、本件においては、法律的な知識を有する専門家を財産管理人に選任するのが相当であると考えられる。

以上により、主文のとおり審判する。

(家事審判官 高橋正)

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